職場における 熱中症予防対策

6熱中症予防のための健康管理

(1)作業前の体調確認

現場の監督者は、暑熱な環境で身体活動を始める前に、作業者に対して、「十分に睡眠を取ったか」、「酒の飲み過ぎ等で脱水状態ではないか」、「食事はしたか」、「下痢や発熱はないか」を必ず確認し、もし、脱水状態や食事を抜いて出勤した疑いのある人がいれば暑熱な環境で作業に従事させることを厳に禁じるべきです。その際、暑さに慣れていない人も申告させることが望まれます。これらの質問に正しく答えさせるには、日ごろから自らの体調を正直に申告できる雰囲気を醸成し、仲間同士もお互いの顔色や様子を観察して声をかけ合うよう促しておく必要があります。また、予め、熱中症の診療ができる救急部門のある医療機関の連絡先を調べておくことが勧められます。

(2)作業後の生活指導

作業が終わった後は、多量の発汗を伴う生活は避けて、十分な食事、休養、睡眠を取るように促し、その日のうちに体温を正常化するように指導します。また、入浴後、就寝前、起床時に水分を補給するように指導し、体重が減っておらず、尿の色が濃くないことを確認させます。一日の最低気温が25℃以上の熱帯夜の場合は寝室が蒸し暑くなるので、体温上昇や体重減少を確認させます。夜中に空調を使用した場合は、室内が乾燥して不感蒸泄(人間の吐く息から失われる水蒸気や肌では感じない汗)が増えるので、水分は多めに補給するように促します。アルコールは、尿量を増やす作用(利尿作用)があり、飲量より多い尿が出てしまうこともあるので、飲み過ぎに注意させ、飲酒後には必ず水分を補給するよう指導します。

(3)特定業務従事者の健康診断

労働安全衛生法は、暑熱な職場に特別な検査項目を含めた健康診断を義務づけてはいませんが、労働安全衛生規則第45条に基づいて半年に1回の健康診断を実施するよう規定しています。熱中症になりやすい体質や状態を判別する上で簡便に検査できる指標は現在のところ開発されていませんが、健康診断の際に医師や看護職が熱中症を生じやすい作業環境、作業、健康状態に関して問診(表10)を行うことが勧められます。

表10 暑熱な職場の労働者を対象とした特定業務従事者の健康診断における問診例
  • 蒸し暑さの原因を特定し対策を講じているか
  • 蒸し暑さに身体が慣れるように努めているか
  • 暑い日は作業量や休憩時間を調整しているか
  • 熱中症にかかった同僚はいないか
  • 熱中症にかかった経験はないか
  • 水分摂取を制限していないか
  • 塩分摂取を制限していないか
  • 出勤前に必ず食事をしているか
  • 脱水になりそうな運動・飲酒の習慣はないか
  • 利尿剤(尿を増やす薬)等を飲んでいないか

(4)健康診断結果に基づく就業上の措置

健康診断で検査結果に異常所見がある場合は、職場の上司や人事担当者は、産業医等から本人が暑熱な職場における作業に従事するに当たって講ずるべき措置がないかについて意見を聴取する必要があります。産業医等から措置を要する事項について意見を聴取する場合には、職場の上司等は作業環境や作業の様子についてなるべく詳しく説明をして、産業医から具体的な意見をもらえるように工夫します。そして、産業医等から述べられる意見(表11)に基づいて、人事部門は暑熱な職場における就業上の措置を決めます。就業上の措置が決まったら、それらがきちんと実践されるように職場の上司や現場の監督者に連絡する必要があります。また、暑熱な職場における作業に従事することが困難であると判定された場合は、まず、本人が治療や生活改善に励むことよって就業適性が確保されるよう促します。そのうえで、当座は夏場の暑い時期だけはその他の業務に従事させるといったやりくりの仕方を検討します。それでもどうしても適性がないということであれば、配置や作業を思い切って転換したりすることを検討します。

特に、肥満の人、筋量の少ない人、糖尿病や耐糖能異常のある人は、熱中症を生じやすいことが指摘されています。これらの人たちについては、暑熱作業中の身体負荷を1~2割減らしたり、休憩頻度を増やしたりするといった配慮をすることが熱中症の予防につながります。

表11 暑熱な作業の労働者の健康診断の結果に基づく医師の意見(例)
  • 熱や蒸気の発生源を別室に移動すること
  • 作業場に屋根やひさしを設けること
  • 窓にすだれやブラインドを設置すること
  • 空調やスポットクーラーを設置すること
  • 扇風機や送風機を設置すること
  • 最も暑い仕事は2人以上で交替すること
  • 1時間ごとに作業休止時間を設けること
  • 空調が効いた休憩室を設けること
  • 休憩室にナトリウム入りの飲料水を準備すること
  • 作業者による作業休止や飲水を許可すること
表12 暑熱職場における熱中症を生じやすい個人要因への対処法

耐糖能異常等の熱中症を生じやすい個人要因のある者に共通の事項

  • 暑熱作業中の身体負荷を1~2割減らすこと
  • 暑熱作業中の休憩頻度を増やすこと
  • 休憩時間中に腋下温を測定すること
  • 腋下温が38℃を超えている間は暑熱作業に従事しないこと
  • 冷却服や冷却器具は実作業での自覚的な有用性を確かめてから使用すること

個人要因ごとに特有の事項

耐糖能異常のある者
  • 休憩時間中に尿糖を測定すること
  • 尿糖が陽性の間は暑熱作業に従事しないこと
  • 一回当たりの食事摂取量を制限して食後の血糖値上昇を抑えること
筋量が少ない者
  • 暑熱作業に従事する前にタンパク質摂取後の運動により筋量を増やすこと
肥満である者
  • 暑熱作業中に飲水と塩分補給ができるようにすること
  • 休憩時間中に体重と脈拍を測定すること
  • 体重減少量が普段と比べて500g以内になるまで水分と塩分を補給すること
  • 脈拍が普段の安静時と同等になるまで水分と塩分を補給すること

(5)健康診断結果に基づく保健指導

健康診断で検査結果に異常所見がある場合は、医師や保健師は、労働者に対して保健指導(表13)を行います。肥満の人、筋量の少ない人、高血圧、心疾患、脳血管疾患、糖尿病や耐糖能異常、腎疾患、甲状腺疾患等の持病がある人、自律神経の機能に影響のある薬を内服している人、塩分摂取を制限されている人は、かかりつけの医師や職場の産業医に注意すべき事項を尋ねさせておきます。

もし、現場で体調不良を訴える人やいつもと違う様子の人が現れた場合は、涼しい場所で休憩させてスポーツ飲料等を飲ませ、衣服を脱がせて体表に水を軽くかけて団扇などで風を送るとともに、身体の大血管部位(腋下や股間等)を氷嚢や保冷剤で冷却します。自力で飲料が飲めない場合や言動がおかしいと感じる場合は、直ちに救急車を要請し、誰かが同行して医療機関に搬送します。このような事態に備えて、保冷剤や体温計を用意し、緊急時の連絡体制を整え、救急処置の教育や訓練を行っておくことが勧められます。

表13 暑熱な職場の労働者への保健指導(例)
  • 熱中症の症状があれば上司に報告する
  • 普段よりも蒸し暑いときは無理をしない
  • 蒸し暑さに身体を慣らすように努める
  • 日陰を選んで業務や通勤をする
  • 空調や扇風機は風向きを変えて使用する
  • 発汗時はナトリウム入りの飲料を摂取する
  • 夜更かしをせず睡眠を十分に取る
  • 出勤前には必ず食事をすること
  • 過度な脱水になる運動・飲酒は控える
  • 主治医に暑熱対策について相談する

(6)広報

企業や自治体では、熱中症を予防するために、管轄する場所や地域に対して、積極的に広報を行っているところがあります。たとえば、滋賀県草津市では危機管理課という部署を中心に、市民の熱中症を予防するために積極的な対策を講じています。草津市熱中症予防に関する条例を施行し、WBGT(暑さ指数)が28℃を超える場合に、市内全域に熱中症厳重警報を発令し、防災行政無線を通じて広報しているほか、同市のホームページから登録した方に熱中症予防情報のメールを送信しています。また、「熱中症を予防するための6箇条」(表14)や「草津市民を対象とした熱中症予防対策(予防指針)」をまとめていて、これらの取組は職場でも参考になります(http://www.city.kusatsu.shiga.jp/www/contents/1222412178168/index.html)。

表14 滋賀県草津市の「熱中症を予防するための6箇条」
  1. 暑い日には無理なスポーツや作業を控えましょう。草津市は湿度が高いので油断は禁物です。
  2. 子どもやお年寄りは発生の危険が高いので注意しましょう。二日酔い、睡眠不足、下痢、カゼ気味のときは危険です。
  3. 暑い日の活動は十分な水分・塩分補給と適度な休憩が必要です。
  4. 涼しい服装に心がけましょう。日なたでは帽子をかぶりましょう。
  5. 日頃から暑さに慣れておきましょう。急な暑さには注意しましょう。
  6. 救急処置は早く行いましょう。