職場における 熱中症予防対策

2現場での応急処置

暑熱な環境で熱中症を疑う症状(めまい、失神、吐き気、嘔吐、筋けいれん等)が発生したら、なるべく早期に脱水状態の回復や体温の正常化に向けて救急処置を始めることが肝心です。熱中症の重症度は3段階に分けられています(表9)。しかし、熱中症には、特異的な症状がありませんし、体温が高くなる原因は熱中症だけとは限りません。したがって、現場で熱中症かどうかを正しく判断することは容易ではありません。

まず、呼びかけに反応しないときは救急車と応援を要請します(図6)。もし、正常な呼吸でない場合は一次救命処置(Basic Life Support)を始めます。胸骨を圧迫して心臓マッサージを行い、AEDがあればその指示に従いショックを行います。そして、救急車で医療機関に搬送する際は、経過を最もよく知る人が医療機関に同行することが望まれます。

暑熱な環境で身体活動をしている人が多量に発汗して顔面も紅潮している場合など熱中症の疑いが強い場合は、脳の温度が高くなりすぎて意識レベルが低下している可能性が高いと思われますので、急いで核心温を38.5℃まで下げる必要があります。そのためには、脱衣させ体表面を露出させ、水で濡らして、うちわなどで冷風を送ります。また、氷のうなどがあれば、頚部、わきの下、股の間など大きな動静脈が通っている部位を冷やします。そのときの体位は、吐物をのどに詰まらせないよう横向きに寝かせて、脳血流を確保するために足を少し挙上し、手足を末梢から中心部に向けてマッサージするのも効果的です。

また、意識レベルが下がっていなくても、熱中症が進行していることはあります。過去の死亡災害を見直しても、顔面紅潮、めまい、ふらつきなどの症状が出始めてからまもなく意識を失っている事例もあります。したがって、手遅れにならないようにするには、管理・監督者はもちろん、作業者がお互いに声を掛け合って健康状態に気を配ることが大切です。そして、暑熱な環境で身体活動をしている人が、いつもと違う言動を生じたら、熱中症を疑う必要があります。その場合は、すぐに風通しの良い涼しいところに移動させて、自力で水分摂取が可能であれば、ナトリウムが含まれた飲料を服用させながら、体温を測り、体調をたずねることが大切です。

表9 熱中症の症状と分類(日本救急医学会)
分類 症状 重症度
Ⅰ度 めまい・失神(「立ちくらみ」という状態で、脳への血流が瞬間的に不十分になったことを示し、“熱失神”と呼ぶこともある。)
筋肉痛・筋肉の硬直(筋肉の「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴う。
発汗に伴う塩分(ナトリウム等)の欠乏により生じる。これを“熱痙攣”と呼ぶこともある。)
大量の発汗










Ⅱ度 頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感(体がぐったりする、力が入らないなどがあり、従来から“熱疲労”といわれていた状態である。)
Ⅲ度 意識障害・痙攣・手足の運動障害(呼びかけや刺激への反応がおかしい、体がガクガクと引きつけがある、真直ぐに走れない・歩けないなど。)
高体温(体に触ると熱いという感触がある。従来から“熱射病”や“重度の日射病”と言われていたものがこれに相当する。)

資料:職場における熱中症予防対策について(平成21年6月19日付け基発第0619001号)

現場での熱中症の応急処置

図6 現場での熱中症の応急処置
資料:職場における熱中症予防対策について(平成21年6月19日付け基発第0619001号)