職場における 熱中症予防対策

4熱中症が発生するメカニズムは?

(3)熱中症の発生メカニズム

熱中症の発生しやすさは、①暑熱な環境(高温・多湿・無風・輻射熱)、②身体負荷の高い作業、③長い連続作業時間と不十分な休憩時間、④通気性や透湿性の悪い服装の4つが総合的に関係します(図5)。さらに、飲料水を摂取しにくい状況、安全衛生保護具の着用、順化していない者による就業が熱中症の発生を助長することもあり、特に、耐熱服、化学防護服をはじめ前掛け、手袋、呼吸用保護具を着用する作業では熱中症を生じやすくなります。

まず、人間は喉の渇きに任せて飲水しても、水やナトリウムの平衡を完全に回復できず、軽い脱水状態に陥り、自発的脱水と呼ばれます。このような時に、水分だけを大量に補給すると血液中のナトリウム濃度の低下(低ナトリウム血症)が生じて、これが原因となり手足等の筋がけいれん(熱けいれんheat cramp)を生じます(図5)。熱けいれんは、小児の熱性けいれんと混同されないように注意して説明する必要があり、筋肉のこむらがえりと呼ぶほうが理解されやすいことがあります。

次に、体表面への血流が増加し、血圧が低下して脳の血流が減少すると、めまい、失神、疲労感、頭痛、嘔吐(熱失神heat syncope)を生じます。そして、脱水も伴ってくると全身のだるさ(倦怠感)、筋力低下、食欲低下(熱疲労heat exhaustion)を生じます。それでも、これらの病態にとどまる間は、体温はほぼ正常に維持されています。

やがて体温の維持が難しくなり、脳内の温度も上昇してくると、暑さの感覚が麻痺します。そして、避暑行動を取ることもできなくなり、皮膚の血管拡張や発汗等の生理的な反応も止まります。こうなると核心温は一気に40℃以上に達し、昏睡、けいれん、ショック、溶血、腎不全による乏尿、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多くの臓器不全等を生じて、緊急に治療をしなければ致命的な状態に陥ります(熱射病heat stroke)。

熱中症の発生機序
図5 熱中症の発生機序

熱中症は、前駆症状や自覚症状が生じてから重症化するとは限らず、早期発見に有用な特異的な症状もありません。運動や仕事に没頭していて、いつのまにか体温が上昇して、脳が正常な判断ができなくなって倒れるという経過をたどる例もしばしば報告されているので予防に徹することが重要です。また、熱中症は、脱水を伴いやすいので、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全等の循環器疾患を増悪させやすいほか、競技能力の低下、作業ミス、生産性や業務の質の低下、事故等も招きやすいと考えられています。