職場における 熱中症予防対策

4熱中症が発生するメカニズムは?

(2)発汗のメカニズム

体温調節に必要な汗は、汗腺で血清から作られます。タンパク質や糖分等の大きな分子は汗に分泌されませんが、ナトリウムイオンや塩素イオン等の電解質は汗に含まれます。汗腺はナトリウム等の電解質をある程度は再吸収しますので、通常、汗に含まれるナトリウムの濃度は血液の1/4~1/8程度に抑えられています。それでも、発汗によって血液中の水分とナトリウムの平衡は一時的に崩れます。人間は飲水や排尿の量や成分を調節することによって、徐々にこれらの水分とナトリウムの平衡を回復させます。

発汗は、交感神経の刺激によって始まります。3~7日間連続して暑さにさらされていると、徐々に、体内の熱産生が始まるとともに発汗が生じ、また、多くの汗腺から発汗が始まることで、効率的な発汗が行われるようになります(図3)。1時間の発汗量が1リットルに至ることもあります。発汗量が増加するとナトリウムイオンの再吸収が追いつかなくなり、汗に含まれるナトリウムイオンの濃度は上昇します。汗が多いほど体温調節には有利になるのですが、それだけ水分とナトリウムイオンを喪失しやすくなります。さらに、3~4週間連続して汗をかいているとアルドステロンの汗腺への作用が強まり、ナトリウムの喪失が抑えられるようになる。これらの現象を暑さへの順化と呼びます。逆に、汗をかかない生活を数日続けていると暑熱順化の作用は徐々に失われます。

発汗量と汗に含まれるナトリウムイオン濃度の関係と順化の影響
図3 発汗量と汗に含まれるナトリウムイオン濃度の関係と順化の影響

血液の浸透圧はナトリウムイオン濃度にほぼ依存しています。大量発汗により血清ナトリウムイオン濃度は一旦上昇します。すると浸透圧が上昇しますので水分が細胞間質から血液に移動し、尿量が減るとともに、口渇感を知覚して飲水し、浸透圧を維持しようとします。この飲水の際に、水分だけを摂取していると、水分がやや遅れて消化管から吸収されてくるのですが、浸透圧の維持に不要な水分は尿に排泄されてしまいますので、水分とナトリウムイオンがともに不足して脱水が残ったまま口渇感が消失してしまいます(図4)。この脱水は自覚しにくく自発的脱水(spontaneous dehydration)と呼ばれます。ナトリウムイオンを含むスポーツ飲料や経口補水液はこの自発的脱水の発生を抑制します。

発汗による脱水と水分補給
図4 発汗による脱水と水分補給