職場における 熱中症予防対策

3熱中症を発生しやすい個人要因は?

(1)小児

思春期前の小児は、体表面の断熱作用が弱く汗腺も未発達なため、環境温の影響を受けやすいと考えられます。また、身長が低いので、太陽光で暖められたアスファルトの路面に近いところで大人よりも暑熱な環境に曝されていることが多いことも懸念されます。

(2)高齢者

高齢者は、感覚神経・運動神経・自律神経の機能低下、循環血液量の減少、末梢血管の動脈硬化などのため、体温の調節機能が全般的に低下しています。暑さを感じるのが遅く、暑さを改善したり避けたりするための行動を始めるのが遅く、汗もかきにくいので、体内の熱を放散させる機能が不十分になりやすく、核心温が高くなりやすいと考えられます。

(3)糖尿病や耐糖能異常のある者

糖尿病や耐糖能異常がある者は、血糖値が高いほど末梢の血管拡張が障害されやすいので、体表面からの熱の放散が不十分になりやすく汗もかきにくくなることから、核心温が高くなりやすいと考えられます。また、糖尿病が重症になると尿に糖が漏れ出すことにより尿量が増えるので、脱水を生じやすいことから熱失神や熱疲労を生じやすいと考えられます。

(4)肥満者

肥満者のうち皮下脂肪が厚い者は、基礎代謝量が大きくなり体内の熱産生が大きいことに加えて、核心温が体表面に伝わりにくく体内の熱を放散しにくいことから、核心温が高くなりやすいと考えられます。また、このことから体内の熱を放散するために大量の汗をかくことになりやすく、脱水にもなりやすいことから熱失神や熱疲労を生じやすいと考えられます。

(5)筋量が少ない者

筋量が少ない者は、循環血液量が少なく、大量に汗をかいたときに脱水になりやすく、熱失神や熱疲労を生じやすいと考えられます。

(6)自律神経に作用する薬剤を内服している者

高血圧や精神疾患等で自律神経に作用する薬剤を内服している者は、内服薬が汗をかく交感神経に影響を与える可能性があり、体内の熱を放散しにくいことから、核心温が高くなりやすい可能性があることが懸念されます。

(7)順化していない者

暑さに馴れて順化するということは、汗を上手にかけるようになるということです。具体的には、暑いところで汗をかくような生活を数日から数週間にわたり続けていると、体内に熱がたまりはじめるとすぐに汗をかき始められるようになり、汗をかける汗腺が多くなって効果的に蒸発熱が奪われて体内の熱が放散されるようになり、さらに、汗で失われるナトリウム量が減ることによって、核心温が上がりにくいうえに脱水になりにくく、飲水後も熱けいれんが生じにくくなります。したがって、順化していない者は、熱けいれん、熱疲労、熱射病を生じやすいと考えられます。

(8)その他の高リスク者

飲酒後などで脱水状態である者、食事を抜くなどして水分や血液中のナトリウムが不足している者、喫煙習慣のある者、強い動脈硬化のある者、広範な皮膚疾患のある者は、皮膚血流の減少、血管拡張能の低下、血管内の脱水などが生じやすく、体内の熱を放散しにくく汗もかきにくいと考えられます。心臓や腎臓の障害がある者も循環機能の障害から体内の熱放散が不十分になりやすく、感染症に罹患している者や甲状腺機能亢進症のある者は体内の熱産生が多くなりやすく、認知症のある者は暑さを避けたり環境温を調節したりする行動を起こしにくく、それぞれ熱中症を生じやすいと考えられます。