職場における 熱中症予防対策

1熱中症とは?

(1)熱中症の定義

熱中症とは、英語では“heat-related illness”と呼ばれる高温な環境を主因とする多彩な症状の総称です。
熱中症は、病気の成り立ちが脱水と高体温の2つに大きく分かれ、①脱水に伴う症状(めまい、頭痛、吐き気、失神(熱失神、heat collapse)、筋けいれん(熱けいれん、heat cramp)、食欲低下、全身倦怠感(熱疲労、heat exhaustion)等)と②うつ熱による体温上昇に伴う臓器不全(熱射病、heat stroke)の両者を含みます(表1)。

ただし、熱帯地域では高温が常態であり熱中症の概念が存在しません。
また、熱中症は、重症度によって3段階に分けられていて、日本救急医学会による分類では、水分の自力摂取で症状が回復する状態をI度、血管内への補液が必要な状態をII度、臓器障害(肝臓、腎臓、脳等の障害、DIC)が生じて集中治療を要する状態をIII度と呼んでいます(表1)。

表1 熱中症の分類

1)病態による分類

「熱けいれん」
大量発汗時に水だけを摂取して、ナトリウムの濃度が低下して生じる筋けいれん
「熱虚脱」「熱失神」
血圧低下や脱水により脳の血流が低下して生じる一過性の意識消失
「熱疲労」「熱疲憊」「熱疲弊」
慢性的な脱水による筋力や消化機能等の低下
「熱射病」
体温上昇で体温中枢が障害されて生じる発汗停止、内臓障害、意識障害

2)重症度による分類

「I度」
水分や塩分を自力で摂取できて短時間で回復する状態(軽い熱けいれんや熱失神等)
「II度」
自力では脱水を解消できず、点滴する必要のある状態(入院する必要のある熱疲労等)
「III度」
深部体温が39℃以上で、脳、肝、腎等の臓器障害かDICのいずれかを生じた病態(熱射病)

(2)労働災害としての熱中症

仕事が原因で発生した熱中症は、被災者の申請により、労働災害(疾病の場合は業務上疾病と呼ぶ)と認定されることがあります。

業務上疾病とは、使用者の指揮下で業務に従事していて(業務遂行性)、その業務に内在する危険有害要因が相対的に有力な原因となった(業務起因性)疾病のことです。業務上疾病には、労働基準法により事業主が療養費と休業補償費(給付基礎日額の60%)等を負担しなければならない補償義務が規定されています。したがって、熱中症が労働災害と認定されるには、業務遂行性と業務起因性があることが条件となります。

同法の省令である労働基準法施行規則は、別表1の2として対象疾病を列挙していて、その第2号「物理的因子による疾病」の8に「暑熱な場所における業務による熱中症」が記されています。「暑熱な場所」と認められるには、職場が生活環境よりも暑かったことや身体負荷が高かったことなどにより、業務に従事したために体温が上昇して熱中症になりやすかったと推定されることが要件になります。「暑熱な場所」であっても、脱水によって狭心症、脳梗塞、腎不全等で持病が増悪した病態は、現時点では、業務上疾病とはしての熱中症とは認定されません。

労働行政は国家公務員が担当していて、全国で同一の基準が適用されます。業務上疾病のうち業務起因性の判断に疑義が生じやすい疾病については、厚生労働省労働基準局長の通達により認定基準が示されているものもありますが、熱中症では示されていません。

ここで、労働者災害補償保険(労災保険)は、政府が保険者となり使用者が強制加入する保険制度で、被災者の請求に基づいて、療養費、休業4日目からの休業補償費等が給付されます。労災保険の給付を受けた範囲は使用者による補償の義務が免除されます。労災保険は、使用者や労働者のいずれの過失が大きかったかは問いませんので(無過失責任制度)、速やかに補償が行われます。

また、労働安全衛生法の省令である労働安全衛生規則第97条は、労働災害が発生した場合は労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出する義務を規定しています。その中で、休業4日以上の労働災害は遅滞なく報告する義務がありますが、それ未満は四半期ごとの報告でよく、疾病別の統計は休業4日以上のものしか公表されていません。

最後に、厚生労働省は5年ごとに労働災害を防止するための労働災害防止計画を取りまとめています。第12次労働災害防止計画(平成25~29年度)からは、労災防止に関して重点的な対策を講じるべき疾病の一つに熱中症を取り上げていて、屋外作業での措置の強化や熱中症対策製品の評価等を検討しています